敗戦後、黒澤映画『安宅』は占領軍の検閲を受け、オクラ入りとなりました。しかし、1952年になって初めて上映され、その傑作として評価されました。この映画は、能の『安宅』とその歌舞伎化作品『勧進帳』を基にしており、源頼朝から逮捕令が出された義経と弁慶一行の「安宅の関越え」を描いています。黒澤は義経一行におしゃべりな強力を加え、エノケンのキャラクターを活用しています。特に、大河内伝次郎演じる弁慶とエノケン演じる強力の対比は際立っており、この映画を特別なものにしています。エノケンの軽妙さは滅びゆく者たちの悲劇性を一層引き立てています。結末では、酒に酔いしれる弁慶の心情や、目覚めた時に一人残されていた強力の涙など、詩情豊かな場面もあります。